テーマ 「当事者」〜狭山事件から50年〜(116座)

2013(平成25)年8月1日


 

表紙

↑石川さんが逮捕後、7月2日付で書かされた「脅迫状写し」と脅迫状には重大な差異があります。とくに重大なのは、脅迫状で正しく書かれている「刑」「武」「園」が「脅迫状写し」ではひらがなで書かれているという点です。「刑」「武」は手本にしたという「りぼん」にも出ていない漢字です。寺尾判決は「「刑」の字はテレビでおぼえていた」「「武」の字は西武園へよく行っていたのでおぼえていた(可能性もある)」と勝手な推測をしていますが、それならば7月2日付の「脅迫状写し」で書けていなくてはならないはずです。寺尾判決の誤りはあきらかです。脅迫状と「脅迫状写し」の差異こそ石川さんの無実をあらわしています。

 

1、脅迫状の第一筆と第二筆は連続しているが、上申書は連続していない。
2、上申書には、第三筆終筆部の回転部に誤りのある「ま」が三例ある(3と5と6)。当時の石川さんがひらがなすら完全に習得していなかったことをあらわしている。
3、関根・吉田鑑定、長野鑑定ともこの誤った三例の「ま」を鑑定対象からはずしており、きわめて恣意的である。

 

住職記

■先日の教区部落問題研修会で講師の藤場俊基先生は、同朋会運動の現状、そして様々な取り組みにおいても、そこに「担当者」はいるが「当事者」が見当たらないと指摘されました。「担当者」は担当を外れたら無関係になる者であり、「当事者」とはそのことを自らの課題とし荷う者であると話されました。
■そのことから思い出される会話があります。ある方が曽我量深先生に「どうすればこの世から戦争が無くなるのでしょうか」と質問されました。先生は次のように答えられたそうです。「私のような者がいる限り、この世から戦争は無くならないのでしょうね」と。それは決してあきらめではなく、「当事者」の自覚であると思います。
■また、この会話は「戦争」を「差別」という言葉に置き換えることも出来るのではないでしょうか。 「私のような者がいる限り、この世から差別は無くならない」と。
■今年、狭山事件発生から50年なります。その節目に最近、次のような文章に出会いました。長文ですが全文を掲載させていただきます。

 1963年5月23日、狭山事件の犯人として逮捕された石川一雄 さんは、以後32年間の獄中生活を送ることになった。
 当時、この事件の張り込みの中で犯人を取り逃がすという大失態に世論の非難をあびた警察は、女子高生殺害の証拠がないまま、石川さんを別件逮捕し、警察の代用監獄で連日厳しい取り調べを行ない自白を強要した。無実を訴える石川さんを警察、検察は一旦保釈後ただちに再逮捕し、特設の取調室に移して弁護士との接見を禁止し、ウソの自白をさせたのである。被害者の遺体が被差別部落の近くで発見されたことから、住民の中には「犯人は部落民だ」という偏見に満ちた声が広がり、石川さん逮捕後マスコミは「石川の住む特殊地区」「犯罪の温床」「環境が生んだ犯罪」等々と報道し、石川さんの人格を攻撃する多くの記事を掲載している。
 狭山事件は典型的な虚偽の自白による冤罪である。そこに別件逮捕後、密室での長期の取り調べや、弁護士接見の禁止という、冤罪を生み出すあらゆる問題が見出せるのである。また同時に部落差別に基づく見込み捜査が生みだした冤罪なのである。
 狭山事件は現在、2006年5月に始まった第3次再審請求によって大きく前進し、 全国の市民・学者・文化人・ジャーナリストら の支援によって、100万人を超える署名が東京高裁や高検に提出されている。そして2009年12月の東京高裁の証拠開示の勧告を受けて、逮捕当日の上申書や当時の捜査報告書など120点を超える証拠が開示された。さらに、殺害現場に隣接する畑で、事件当日農作業を行っていたAさんの「悲鳴は聞いていない」という証言や、石川さんは脅迫状を書いていないとする多数の筆跡鑑定、自白の虚偽を示す科学的鑑定などの新証拠が弁護団によって東京高裁に提出され、徹底した証拠開示と事実調べが求められているのである。
 この事件の真相があらためて明らかにされようとしている。狭山事件が50年をむかえるいま、真宗大谷派としてもこの事件に学び、冤罪を起こさせない社会にむけた発信をする必要があろう。

真宗大谷派(東本願寺)解放運動推進本部本部委員 浜口安宏

■体制の横暴とそれを後押しするマスコミによる冤罪。考えてみれば、差別問題、原発問題、靖国問題もその根は同質ではないでしょうか。いつも弱者が抑圧されていくのです。
■今、一人ひとりが、そのような世の仕組みをしっかりと見抜く眼を持つことが願われています。そしてそれは「当事者」としてです。

 

編集添記

▼「100万人を超える署名」とありますが、狭山事件の再審を求める市民の会(代表・庭山英雄弁護士、事務局長・鎌田慧)では署名活動を今後も継続しておられます。同意くださる方はお寺に署名用紙がございますので、住職までご連絡ください。
▼「多数の筆跡鑑定」とありますが、そのことについては表紙を参照してください。そしてその他、さらに詳しい証拠開示についてはぜひ、狭山事件資料室HPをごらんください。

▼狭山事件資料室HPを見る

 

▼今回あらためて2人の先生から、世に起こる問題に対して、決して第三者的にしない、そんな「当事者」としての歩みを教えていただきました。最後にこの言葉をいただき直したいと思います。

あなたが自己を認識したければ 
世界のなか、あらゆる周囲に目をそそぎなさい
あなたが世界を認識したければ
あなたのなか、自身の深みに目を向けなさい
『箴言(しんげん)集』 シュタイナー

 


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