滋賀/長浜 真宗大谷派浄願寺

滋賀県長浜市のお寺
-真宗大谷派浄願寺-


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●テーマ 念じられて照らされて(135座) 

2015(平成27)年6月1日

表紙
愛することの出来ない自分自身を
どれだけ深く知らされているかという
その者だけに
本当に愛するっていうことが始まる

『愛について』竹中智秀先生の言葉
住職記
■結婚のことを「ハッピーエンド」や「ゴールイン」と呼ぶように、現代それが人生の最大の目標にさえなっています。そのことを煽る、流行歌、映画、小説、テレビドラマ、また、バレンタインデー、ホワイトデー、クリスマス等も、ほとんどは愛がテーマです。
■しかし、よくよく考えてみると、愛ほど独占欲、支配欲が強いものはないように思います。どうかすると相手のことを大事に思うよりも、相手を求める自分の心を大事に思っているのかもしれません。そうである限りそれは自己愛の変形に過ぎないと思います。だから、その愛が報われないとなると、相手を恨むことになったり、場合によっては殺意に及ぶことさえもあります。
■そしてこれは何も男女間のことに限らず、あらゆる間柄においてそのようになっているのではないでしょうか。いつも自分の思いを相手に押しつけているだけなのかもしれません。
■悲しいかな、私たち人間は、相手のことを本当に愛することは出来ないのではないでしょうか。本当は誰ともわかり合えないのではないでしょうか。そして、そのことは誰に言われるまでもなく、うすうすと誰もが心の深いところで「孤独感」となって感じているように思います。
■親鸞聖人は

 聖道の慈悲というは、ものをあわれみ、かなしみ、はぐくむなり。しかれども、おもうがごとくたすけとぐること、きわめてありがたし。
『歎異抄』(真宗聖典628頁)

と言われます。『源氏物語』の中にも「いと愛(かな)しき妻子もわすれ」とあるように、これは平安時代からの言葉遣いで、「かなしみ」とは「愛(かな)しみ」です。聖道の慈悲というのは、全般的に言えばそれは人間の愛であり、親鸞聖人はそこでそのことの限界を教えてくださいます。ただそれは決してあきらめや開き直りの言葉ではなく、人間の本当の姿です。「おもうがごとくたすけとぐること、きわめてありがたし」なのです。
■このような文章に出遇いました。

 自分が、人を救う者にはなり得ないと、力の限界を知らされ、ただ、苦しんでいる人の、手を握る以外にないときばかりであった。そんなときは、励ましの言葉もなぐさめの言葉も嘘になる。すべての言葉が死に、越えられない川の岸に立ち尽くす。ただ祈りだけが残る。
『悲しみに身を添わせて』祖父江文宏著

さらにそんな「祈り」に立って私たちに静かに且つ力強く語りかけてくるこのような言葉があります。

 愛することの出来ない自分というものを、どこまで本当に知らされておるのかという、そういう苦悩の上にあらわれている愛というのがあるんです。 
『愛について』竹中智秀講述
 
■不思議なことに人間の心の底に「孤独感」や「苦悩」となって促してくるものがあります。そしてこのはたらきこそがこの私に、人間の愛以上のもっと確かな出会いというものを求めさせるのです。親鸞聖人はそのはたらきを

 浄土の慈悲 
『歎異抄』(真宗聖典628頁)

という言葉で教えてくださっているように思います。
■そもそも、人間の愛よりも「孤独感」や「苦悩」そして「祈り」の出所の方がより深いのです。だからそれらは絶望では決してありません。むしろ逆です。それは人間への信頼です。人間は自身の愛よりもさらに深く促してくるはたらきの中にいつもいる存在だからです。人間の愛への信頼ではなく、その確かなはたらきにおいて人間への信頼があるのです。
■人間と人間との間にどこまでも流れる、越えられない川の岸に立ち尽くし、それどもなお、促してくる「浄土の慈悲」のはたらきよって、共なる世界を求めて止まない人間への信頼です。
■浄土から念じられ照らされて、歩み出すのが人間なのでしょう
編集添記
「念じられ照らされて」は『ひだご坊』(2015年5月20日)高山教務所発行に掲載されたもので、訂正加筆前の文章を今回、載せさせていただきました。

表紙は同じく『愛について』の中の私が最も印象に残っている竹中先生の言葉です。やはり「ハッピーエンド」や「ゴールイン」という喜びへの「終着」ではなく、浄土から念じられ照らされて、歩み出す悲しみからの「出発」なのですね。

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