滋賀/長浜 真宗大谷派浄願寺

滋賀県長浜市のお寺
-真宗大谷派浄願寺-


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●テーマ 十方衆生(じっぽうしゅじょう)(223座) 

2022(令和4)年10月1日

表紙(住職記)
▼今回の真宗大谷派閥宗議会の一般質問答弁抄録(次頁)と合わせて、今一度次のSF(空想物語)の本を紹介させて頂きます。
▼それは星新一さんの『ショートショートの広場8』(講談社文庫※下画像)という本で、これは星新一さんが一般の方からいろんな作品を募集し、一冊の本にまとめられたものです。その中にドキッとする八塚顔高さんの 「みんなの願い」という短編があります。このような内容で始まります。

ある日突然、「私は神の使いでございます」という声が聞こえてきました。その声はみんなの脳に直接届いているようで、みんなキョロキョロしながら驚いています。「今回、地球が一周期を迎えました。その記念日に神様が皆さんの願い事を一つ叶えてくださることになりました。一週間の時間をあげます。一週間後、あなたの願い事を一つだけ神様に念じてください。その中で一番多かった願い事を神様が叶えてくださいます」 その声はみんなに届いているわけですから、職場も学校も街中もその話題でもちきりです。世界中が願い事で一色になりました……

▼さて、あなたはどんな願い事を念じますか?結末は次頁です。

2頁
■東本願寺発行の『真宗』9月号に宗議会の一般質問答弁抄録が掲載されていました。その中で、ある一人の門徒さんの『真宗大谷派宗憲』に対する要望がありました。そのことに私は非常に感銘を受けたのでここに紹介させて頂きます。

宗憲前文の「人類平等の救いを全うする普遍の大道」と述べてある部分の「人類」という言葉を「十方衆生」に改めていただきたいという要望です。このご門徒は現在91歳、10代の頃より農業を生業としてきた、その生涯の中で数多の生きとし生けるものを殺し続けてきた生活実践から、宗憲前文をあらためて読んだ時、人類だけの救いを説くのが念仏の教えなのかという疑念を抱いたことは想像に難くありません。

■続けてここでの議員の言葉ですが、次のように話されました。

近年「自然の権利」を認める国が増えているというのが世界的潮流です。「人権」という言葉を他の言葉に置き換える、つまり人間以外の生命が待つ権利、いわば「自然の権利」を認めるというものです。具体的には2012年、ボリビアが初めて自然の権利を認める法律をつくって以降、2019年にはウガンダ、そして本年3月にはチリ、エクアドル、パナマで法制化されたと聞いております。

■このこともまた同感であり、私自身も「人権」という言葉には違和感を感じます。まどみちおさんも次のように書かれています。

「人権」は大事ですが、人間以上に動植物の方がひどい目にあっている。なぜ「生命権」と言わないのか、不思議に思うのです。
『詩人まど・みちお100歳の言葉 どんな小さなものでも みつめていると 宇宙につながっている』まど・みちお著より 

■そしてこの後、内局から次のように答弁されています。

宗憲前文中の「人類平等の救いを全うする普遍の大道」という言葉につきまして、無論、「人間だけの救いを説くのが浄土の真宗」であるということを示しているわけではございません。ここで言われる「人類」とは、仏教用語の「衆生」が表す意味を、先人たちが広く世に伝えようとして選びとられた懸命の表現であると受けとめます。この言葉は、同朋会運動の中で大切にされてきた願いが表現されたものであります。そのことが、宗憲改正時には「人間中心主義を超えた人間成就の道」とも言い表されています。そして、なぜ「人類」あるいは「人間」という表現が強調されたかについては、決して人間のみの救いを目指しているからではなく、一切の衆生の中で、人間が最も罪業が深く重いためではないかと領解いたします。すなわち、一人ひとりの人間が罪業深重であると自覚することこそが、「十方衆生」の救いを開いていくことになるのではないでしょうか。

■今、静かに「人間が罪業深重であると自覚」し、表紙の話の結末を頂き直したいと思います。原文をそのまま掲載させて頂きます。

そうしているうちに、願い事に染まった一週間が過ぎた。人々はそれぞれに願い事を決め、神に向かって念じた。願い事を済ました人々は一様に緊張して神様の発表を待った。……そしていよいよ発表の時がやって来たのだった。「地球の皆様今日は。私の声が聞こえていますでしょうか」一週間前と同じ不思議な声がまた聞こえて来た。もちろん今度は誰も驚かない。みんなこの時を待っていたのだ。「私は先日皆様に御挨拶させていただいた神の使いでございます。さて、本日は以前お知らせした通り、神が願いを叶える件につきまして願いが決定しましたので発表させていただきます」「一体どんな願いが叶うのだろう」「自分の願いが叶えばいいな」みんな一心に声に耳を澄ましている。「こちらといたしましてはおそらく色々な願いがあるだろうと思っておりましたが、意外にまとまっておりました。いえ、これは余談です。それでは発表いたします」人々が『意外にまとまっていた』という願い事について「もしかして他のみんなも自分と同じ願いを……」などと勝手に想像しているうちに神の使いは言った。「今度神が叶える願い事は……人間以外のほとんどの生物の願いである

『人間を地球上から滅亡させて下さい』

というものに決定いたしました。皆様、次の一周期を目指して地球を大切にして下さい。それでは御機嫌良う」そんなわけで、人間たちが最後に聞いたのは動物たちの歓喜にも似た鳴き声だった。
『ショートショートの広場8』星新一編より  

■神の使いの声は人間だけでなく、生きとし生けるすべての「十方衆生」に届いていたのです。この物語から、人間以外の生物にとって、人間ほど「罪業深重」な存在は他にないと痛感させられます。

■しかし考えてみれば、なぜこのような作品が人間の中から生まれてくるのでしょうか。それは「みんなの願い」よりももっと深い願いが尽き上げてくるからなのです。「三帰依文」にある「まさに願わくは衆生とともに」という「本願」が誰の中にも確かに届いているからではないでしょうか。

■本願文の第十八願、十九願、二十願に共通しているのは「十方衆生」と「欲生我国」です。我が国に生まれよというのは、人間だけでない、生きとし生けるすべてのいのちへの仏の呼びかけです。

「十方衆生」というは、十方のよろずの衆生なり。すなわちわれらなり。
『尊号真像銘文』親鸞聖人(真宗聖典521頁)
編集後記
▼『真宗』の中のご門徒は西山誠一さんのことであり、長浜教区の人生講座の法話や蓮如上人御影道中でも会わせて頂き、また子ども奉仕団でも一緒でした。鋭い厳しさと、そして優しい念仏者の印象が今も強く残っています。今回も「十方衆生」という大切な問題提起を頂きました。

▼相撲町をはじめ、何人もの人が浄願寺本堂入口に設置されたスロープを見に来られています。つい先日の方は、「私のためにしてくださった…」と言われ、心に響きました。ありがとうございました。

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