テーマ 浄土真宗(192座)

2020(令和2)年3月1日


表紙

もっと悩まねばなりません。
人類のさまざまな問題が
私たちに圧(の)しかかっているのです。
安っぽい喜びと
安心感にひたるような
信仰に逃避していることはできない。
むしろ、そういう安っぽい信仰を
打ち破っていくのが浄土真宗です。              

安田理深

住職記

■「ごえんさん、親鸞聖人の教えは浄土真宗というんやろ。しかしなあ、その浄土ということが一番わらんのではないやろか…。」

■先日、このような問いを頂きました。本当にそうです。私たちは、浄土真宗の教えを頂いているのですが、やはり浄土が一番わからないのです。どうかすると死後の世界と思っています。そこであらためて、浄土真宗について私が教えられたことを少しだけ書かせて頂きます。

■『極楽』という小説があります。宗兵衛とおかんという名前の夫婦が主人公で、先に宗兵衛が亡くなっています。何年か経ちおかんが亡くなり極楽で再会するという、このような文章です。

「お前も来たのか」と云うような表情をしながら座を滑べっておかんの為に半座を分けてくれただけである。それでも、おかんは落着くと、夫と死に別れてから後の一部始終を話した。
(中略)楽しい日が続いた。暑さも寒さも感じなかった。色食(しきよく)の欲もなかった。百八の煩悩は、夢のように、心の中から消えていた。極楽の空がほがらかに澄んでいるように、心の中も朗らかに澄んでいた。「ほんとうに極楽じゃ。針で突いたほどの苦しみもない」と、おかんは宗兵衛の方を顧(かえり)みて云った。が、宗兵衛は不思議に、何とも答えなかった。同じような日が毎日々々続いた。毎日々々春のような光が、 空に溢れている。澄み渡った空を孔雀や舎利が、美しい翼を拡げて舞い遊んでいる。娑婆のように悲しみも苦しみも起らなかった。風も吹かなかった。雨も降らなかった。蓮華の一片(ひとひら)が、散るほどの変化も起らなかった。おかんの心の中の目算(もくさん)では、五年ばかりも蓮の台に坐っていただろう。「何時まで坐るんじゃろ。何時まで坐っとるんじゃろ」と、おかんは或日ふと宗兵衛に訊いてみた。それを聴くと宗兵衛は一寸(ちょっと)苦(にが)い顔をした。「何時までも、何時までも、何時までもじゃ」と、宗兵衛は吐き出すように云った。「そんな事はないじゃろう。十年なり二十年なり坐っていると、又別な世界へ行けるのじゃろう」と、おかんは、鮒(ふ)に落ちないように訊き返した。宗兵衛は苦笑した。「極楽より外(ほか)に行くところがあるかい」と、云ったまま黙ってしまった。
(中略)こうして、二人は同じ蓮の台に、未来永劫坐り続けることであろう。彼等が行けなかった『地獄』の話をすることをただ一つの退屈紛らしとしながら。
『極楽』菊池寛著     

■小説はこのように終わるのですが、これが実に大切なことを言い当てています。この話のように、私たちが考える浄土とは、光明に満ちた、針で突いたほどの苦しみもない心地良い世界です。

■そして、そこにいるのは宗兵衛とおかんだけです。この話のように、私たちが考える浄土とは、私たちだけ、せいぜい拡がっても家族か仲間だけの世界です。

■宗兵衛とおかんのいる世界。これほど退屈でつまらない、そして恐ろしい世界はありません。私たちは果たしてこんな浄土を求めているのでしょうか。

■私が教えられたこと、それは「浄土はゴールインの世界ではない」「浄土は自分たちだけの世界ではない」そして表紙の言葉から「浄土真宗は様々な社会問題から逃避して、自分だけの救いを喜んで感謝するそんな教えではない」ということです。

■重ねて浄土真宗に生きられた榎本栄一さんの「木の上」という詩を紹介致します。 

うぬぼれは
木の上から ポタンと落ちた
落ちたうぬぼれは
いつのまにか
また 木の上に登っている
『群生海』 榎本栄一著

■私が「ポタンと落ちた」と固める信よりも私におこる「木の上に登っている」という不信の出どころの方が深いのです。浄土真宗は私は心得たと落ち着くのではなく、そんな私の思いをどこまでも破り続ける浄土からのはたらきをいうのでしょう。

■最後に親鸞聖人の和讃を頂きます。

浄土真宗に帰すれども
 真実の心はありがたし
 虚仮不実のわが身にて
 清浄の心もさらになし

『愚禿悲歎述懐和讃』親鸞聖人(真宗聖典508頁)

■限りなく「虚仮不実のわが身」を照らし出す「浄土真宗に帰す」親鸞聖人のお姿があり、ここにこそ人間への確かな信頼を和讃されていると思います…。

編集後記

▼来年が、浄願寺の御遠忌です。いよいよ宗祖親鸞聖人に浄土真宗をたずねて参り ましょう。

▼今回また繰り返し表紙の言葉を紹介致しました。言うまでもなく、打ち破っていく のは浄土真宗であって(他力)、私が打ち破っていく(自力)のではありません。そう言えば去年、浄願寺の永代経法要でも、日野直(ひのすなお)さんが読み上げてくださいました。今年は3月8(日)10:00〜 13:30〜です。ぜひお参りください。

▼3月11日、震災から9年になります。皆さまとともに合掌し「決して忘れない」を憶念させて頂きます。

▼『極楽』菊池寛著の全文はお読みになれます。浄願寺ホームページからリンク(下)しています。

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